− 白洲正子さんの「かくれ里」を読んで −

                金勝寺と狛坂磨崖仏
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1.はじめに      琵琶湖の南、湖南の一角に栗東(りっとう)市があります。  南北に細長い栗東市は、北部の平地に対し、南部には湖南アルプスと呼ばれ  る山が連なっています。  その山の奥に、磨崖仏(自然の岸壁に彫刻された仏像)が鎮座しています。   白洲正子さんの「かくれ里」に、白洲さんが磨崖仏を訪問した様子が綴ら  れています。その記事を読んで、近いうちに訪問してみようと考えていたと  ころ、「近江の散策」会員の「ハマ爺」さんから「磨崖仏の写真を撮って欲  しい」とのご要望をお聞きしました。   そこで、雪の中を必死の思いで(!!)撮影してきました。 2.目的地の位置   まず、おおよその位置を確認してみます。  JR利用の場合、琵琶湖線で京都から20分ほどの草津駅が最寄駅です。  名神高速であれば、栗東ICか、1年前(2005年3月)にオープンした  草津田上(たなかみ)ICが便利です。 20060212magaibutsumap.jpg  栗東市で全国的に有名な ものと言えば、私たちが トレセンと呼んでいる、競 走馬のトレーニングセンタ ーでしょう。  私は月に2、3回、トレ センの横を通っています。 信楽にある陶芸の拠点に、 陶芸仲間と集まるためです。  今回は私が慣れているこ のルートを使い、東から入 りましたが、西から登る道 もあります。   県道12号線(栗東信楽線)を北から南へ進み、トレセンを過ぎてしばら  くすると、急な山道にさしかかります。峠の頂上の少し手前、9合目位の位  置に道の駅「こんぜの里」があります。標高400メートル位でしょうか。  この辺りは金勝という地域で、金勝と書いて「こんぜ」と読みます。  最初に向かう金勝寺は、「こんしょうじ」と呼ぶようです。 20050516magaibutsu (6).jpg  この道の駅の横(写真の右手)で、金 勝寺へ通じる道が分かれています。  私の車はノーマルタイヤなので、道の 駅でスタッドレスタイヤの友人の車に乗 り換えました。 ←南向きで撮った道の駅  (2005年5月撮影)    3.金勝寺(こんしょうじ)   道の駅を出発したのは午後2時半頃でした。  この日(2月12日)の朝、信楽へ行くために峠を通過したときはうっすら  と雪が積もっていたので、山頂に向かうのは心配でした。  案の定、途中からは雪が数センチ積もっており、ノーマルタイヤではとても  登れない状態でした。   磨崖仏を訪ねる前に、金勝寺に寄ってみます。  金勝寺は、今回のルートの途中に位置しているというだけでなく、後で述べ  るように、磨崖仏の出現には金勝寺の存在が欠かせなかった、と思われるた  めです。  道の駅から金勝寺までは、2キロ余りの感じです。   参道はうっすらと雪に覆われていました。  ここは無住の寺ですが、参道は雪掻きがされていました。わずかながら、参  拝者が訪れた形跡が残っていました。  20060212magaibutsu (16).jpg ←参道  ↓ 20060212magaibutsu (17).jpg 20060212magaibutsu (18).jpg ←山門  ↓ 20060212magaibutsu(21).jpg 20060212magaibutsu(19).jpg ←本堂 「おさいせんは中へいれてく  ださい」  の札が下がっていました。    ↓本堂の扉   20050516konshoji (2).jpg   この寺は、紫香楽宮(しがらきのみや)を鎮護するため、聖武天皇の勅願  により、天平5年(733年)に僧良弁(ろうべん)が創建したそうです。  (良弁は、石山寺、常楽寺、長寿寺など、いくつものお寺を創建した実力者   でした。)  かつては大講堂や三重塔などが建てられていたようです。  本堂左手奥の少し高い位置に、発掘された堂舎跡が残っています。   現在の建物も創建当時の様子を伝えているものと思います。  そう思って見ると、木組みや彫刻が素朴で、天平時代のおおらかな気風が感  じられます。 20050516konshoji (3).jpg ←本堂の装飾(2005年5月撮影)  ↓ 20050516konshoji (4).jpg 4.尾根からの眺望   金勝寺から、少し登りの道を西へ進みました。  2キロ余り進んだところに駐車場がありました。そこは15センチ位の雪が  積もっていました。  ここに車を停め、山菜採り用のスパイク付き長靴に履き替えました。   今回は、陶芸仲間のTさんが同行してくれました。  Tさんは、甲賀市で民生委員をしている人格者です。この日の昼、信楽で陶  芸仲間の新年会がありました。磨崖仏のことを聞いてみると、近江育ちの人  でも、訪ねたことがある人は意外に少ないようでした。たまたま山歩きが好  きなTさんが詳しく知っており、私の無謀を心配してくれたのです。   駐車場の近くに竜王山の頂上がありました。標高604.7メートルの表  示がありました。この山は湖南アルプスで一番高いそうです。  20060212magaibutsu(2).jpg  下界に眼をやると、我家の裏庭にある(!) 「近江富士」(=三上山)が見えました。 ←三上山(三角形の山)  トレセンも間近かです。  ↓栗東のトレセン  20060212magaibutsu(15).jpg   雪の山道を登ったり下りたりする途中に、小さな社や石仏がありました。 20060212magaibutsu(3).jpg ←名前は?(失念)   ↓茶沸観音 20060212magaibutsu (1).jpg   ここは石の多い山です。あちこちに大きな岩が顔を出しています。 20060212magaibutsu (13).jpg ←重ね石   第二名神の工事現場が見えます。  土山から信楽を経て、草津田上ICに接続され  る計画です。   草津から京都に向かう第二名神は、つい最近  工事の凍結が決まりました。     ↓第二名神     20060212magaibutsu (12).jpg 5.狛坂磨崖仏(こまさかまがいぶつ)    駐車場からおよそ45分歩きました。  人一人が歩けるだけの山道です。雪を踏みしめながら少し登り下りした後、  ずっと下り坂になり、山の中腹まで下りました。ここの標高は400メート  ル位でしょうか。  山の斜面に磨崖仏が静かに横たわっていました。   ゆっくりと、近づいてみましょう。 20060212magaibutsu (11).jpg 20060212magaibutsu (4).jpg    20060212magaibutsu (6).jpg           20060212magaibutsu(5).jpg   花崗岩は縦6メートル、横4.5メートルあるそうです。  中央に座しているのは如来像、その両脇に立っているのは菩薩像です。  (ちなみに、如来は悟りを開いた後のお釈迦様、菩薩は修行中のお釈迦様で   す。ということを、つい最近、私の参加している歴史教室で習いました。)   作風からみて、朝鮮半島からの渡来人による作であろう、ということです。  近江には沢山の渡来人が住みついていた、と言われています。   磨崖仏は北を向いています。磨崖仏の向いている前方は、切り開かれた平  地です。雑木が生えていますが、石垣が少し残っています。  ここは狛坂(こまさか)寺の跡地(狛坂廃寺跡)です。 20060212magaibutsu (9).jpg  金勝寺は女人の参拝が許されなかった ため、金勝寺の別院として、狛坂寺が9 世紀に建てられたのだそうです。  磨崖仏は、狛坂寺に詣でた女人が拝す るために作られたものかも知れません。                 磨崖仏と向き合うように、小さな石碑が                 並んでいました。 20060212magaibutsu (8).jpg 6.おわりに   残念なことに、今回は写真を十分に撮ることができませんでした。  デジカメの電池残量が少ないという警告が、予想外に早くから表示されたた  めです。寒さで、電池の出力が低下したためだと思います。あいにく、スペ  アの電池を入れたカメラバッグは車に置いてきたので、ズームの使用を断念  しました。     山頂の駐車場から狛坂磨崖仏まで、往復2時間弱かかりました。  西から登るルートにしても、往復で2時間は山歩きが必要と思われます。  白洲さんが訪ねた30年以上前は歩きにくい道だったかも知れませんが、現  在の道はハイカー用に整備されています。   昔、女性の参拝者が訪れたのは、春から秋にかけてのことでしょう。  狛坂寺に詣で、緑に包まれて鎮座する磨崖仏を仰ぎ見たとき、つかの間の生  を全うする力を授けられたに違いありません。  雪を受けて佇んでいる磨崖仏は、そんな遠い過去の記憶を包み込んでいるよ  うでした。                     (散策:2006年 2月12日)                   (脱稿:2006年 2月25日) ------------------------------------------------------------------
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